カテゴリー別アーカイブ: TALの日記

2月と3月のあいだで

2月も今日で終わり。

三寒四温。

寒さ厳しかった冬も、

少しずつ春へと移っていく。

そんな季節に思い出すのは、この詩。

先般亡くなった吉野弘さんの「名付けようのない季節」。

冬枯れのこずえに うっすらと緑が走り
樹木がそのすべてを
少しのためらいもなく
春にゆだねようとしているのを見ると
そのすばらしさに胸をうたれる。
そして気付く。
ぼくらの季節が
あまりにも樹木の季節と違うことに。

願わくは私も春に身をゆだねたいと思うのだが、

人間の営みはそういう訳にはいかないものらしい。

明日から3月。

気合いを入れ直して、

office TALとしては初めての春を迎えたい。

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寄木細工の小箱

今年になってから事務所デビューした新顔だ。

しかし、私との付き合いはこの部屋のどんな物よりも古い。

箱根土産だろうか、寄木細工の小箱。

全体がコゲ茶に染まり、ところどころ剥げたり、傷が入っている。

もとより高価な物ではない。ありふれた土産物だったのだろう。

私が物ごころ付いたときから、すでに家にあった。

居間の一隅にある茶箪笥の棚に置かれていた。

その茶箪笥の前にはいつも母が座っていた。

切手や印紙、認印などが入っていたのだろうか。

もはや記憶はあやふやである。

ただ、そこに当たり前のようにあり、

その前にはいつも母がいた。

そのころだけは確かに覚えている。

いわば母の背中を見続けた小箱である。

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先年、父が逝去し、家を処分したとき、

この小箱は私のものになった。

母はいささか呆けてはいるが、

老人ホームで静かに余生を送っている。

箪笥も、棚も、着物や書物もほとんどすべてを

家とともに処分したから、

母が生涯をともにしてきた物は、

ホームの部屋に運んだ仏壇と

実はこの小箱くらいしかないのだ。

そのことを、たぶん、母は知らない。

 

小箱はしばらく私の住まいの玄関で、

認印や鍵類を入れて鎮座していた。

思いたって事務所に持ってきたのは、

今年の正月明けである。

特に理由はなかった。ただなんとなくであった。

そして、切手と印鑑を入れた。

けっして事務所にはなじまないが、

それも悪くはないと思っている。

 

若いときからの母の背中を眺めつづけてきた付喪神(つくもがみ)。

最近、比叡山の麓にあった生家のことを思い出すのは、

その神さまのせいだろうか。

庭一面に降りていた霜。

薄く氷の張った池。

犬の鳴き声、トンビの旋回、高野川の川音。

今の自分より遥かに若い父と母。

まだ子供らしさを残した兄たち。

耳や足にできたしもやけの痒さ。

背後のどよもす山の音。

すべてを呑み込む夜の闇。

 

母の手垢の染みたこの箱は、

私にとっては遠い想い出を呼び覚ます

紅茶にひたしたマドレーヌなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

雪のPiazzolla Day

これは理屈ではない。

雪が降り積んで、人出が少なくなり、

街が白い静寂に包まれると、

なぜか頭の中でAstor Piazzolla(アストル・ピアソラ)のタンゴが鳴り出すのである。

アルゼンチンに雪がどれだけ降るのか、

Piazzollaが雪のイメージを抱いていたか、

そんなことは一切知らない。

ただ、私の中で雪の街とタンゴが連結されている。

それだけのことである。

 

というわけで、昨日は「雪のPiazzolla Day」。

仕事場のBGMはずーっとPiazzollaであった。

まずは搦め手から入った。

Al Di Meola入魂の『Plays Piazzolla』(1996)

「Cafe 1930」http://www.youtube.com/watch?v=dvPJczv8USM

「Milonga Milonga del Angel」http://www.youtube.com/watch?v=Rgx84wq3RQ0

次いで、Gidon Kremer『Astor Piazzolla / El Tango』(1997)

「Pachouli」http://www.youtube.com/watch?v=172mAyALf4g←美しい!

「Michelangelo 70 」http://www.youtube.com/watch?v=E8vAm4iBwQk

ここで、ようやくご本尊の登場だ。

Astor Piazzolla『Adios Nonino』(1994)

ピアソラのオーケストラとの共演を集めたコンピレーション。オーケストレーションもピアソラ自身が行い、Quinteto(キンテート)とはまた異なる繊細で豊饒な味わいがある。

CDとは違うオーケストラの演奏だが→「Adios Nonino」http://www.youtube.com/watch?v=VTPec8z5vdY

で、真打ちに Astor Piazzolla Quintetoで『La Camorra』(1989)

Kip HanrahanプロデュースのAmerican Clave 3部作の一つ。Piazzolla晩年の大傑作だ。

とにかくこの曲を聴いてほしい→「Soledad」http://www.youtube.com/watch?v=1nlzJaWUv64

私が雪の街でPiazzollaを連想する気持ちが理解いただけるのではないか。

「La Camorra III」http://www.youtube.com/watch?v=tpT8FhqnvEI

「Sur: Regreso Al Amor (South: Return To Love)」http://www.youtube.com/watch?v=WMS7xy2hPAU

「Fugata」http://www.youtube.com/watch?v=mBw_ZJi_cT4

かくして、Piazzollaな1日が終わった。

その前に雪はすっかり消えてしまっていたが・・・。

 

今年もシャコバが咲いた!

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いつからわが事務所に棲まっているのか?

1鉢のシャコバサボテン。

前の事務所の時代からだから、ゆうに10年を超えるのではないか?

その間、植え替えはおろか、なーんにも手を掛けていない。

思い出したように、水をやるだけである。

毎年、夏場は元気なくうなだれてるように見える。

茎節はコナを吹いたように色が悪くなり、全体に伸びすぎて外に垂れているからだ。

もう花は無理かなと思ったりもする。

それでも冬になると、毎年欠かさずたくさんの花を咲かす。

今年もだ。

1月の中旬から蕾が付きはじめ、2月に入ると次々と開花していった。

「クリスマス・カクタス」と呼ばれる種類もあるというが、

事務所のは「旧正月カクタス」だろうか。

元来は岩山や樹上に棲息するサボテンだ。

私に放置の限りを決め込まれていても、

なーに安穏な環境なのかもしれないが、

少しピンクがかった美しい花を見るたびに、

生命力の強靱さを思わないではいられない。

「オッサン、まだまだ枯れるのは早い」という

シャコバのエールが聞こえてくるようだ。

 

 

 

「I was born」の詩人の逝去

「夕焼け」や「祝婚歌」など広く親しまれた詩で、

ある意味、国民的な詩人であった吉野弘が逝った。

享年87。

その代表作のひとつである「I was born」を

初めて読んだときの衝撃が今も忘れられない。

確か40年近い昔のことだ。

詩のなかの少年よりは少し年長だったと思う。

死と生の連鎖。

こんなにはかなく、切なく、美しい生と死のイメージは

それまでに読んだことはもちろん、想像したことさえなかった。

寺の境内を歩く少年と父親。

身重の女を見かけた少年が誕生は受け身だという思いつきを父親に話す。

なぜか父親は蜻蛉(カゲロウ)の短い生に話を転じる。

詩の最後の2節が怖ろしいまでに美しい。

 

―友人にその話をしたら 或日 これが蜻蛉の雌だといって拡大鏡で見せてくれた。説明によると 口はまったく退化していて食物を摂るに適しない。胃の腑を開いても 入っているのは空気ばかり。見ると その通りなんだ。ところが 卵だけは腹の中にぎっしり充満していて ほっそりとした胸の方にまで及んでいる。それはまるで 目まぐるしく繰り返される生き死にの悲しみが 咽喉もとまで こみあげてるように見えるのだ。淋しい 光の粒々だったね。私が友人の方を振り向いて <卵>というと 彼も肯いて答えた。<せつなげだね>。そんなことがあってから間もなくのことだったんだよ、お母さんがお前を生み落としてすぐに死なれたのは―。

父の話のそれからあとは もう覚えていない。ただひとつ痛みのように切なく 僕の脳裡に焼きついたものがあった。
―ほっそりとした母の 胸の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体―。

http://www.matatabi.net/Poetry/Yosi_03.html

 

私にとって吉野弘は、どこまでも「I was born」の詩人である。

この鮮烈なイメージは今も胸中に刻まれている。

詩人の魂に合掌。

 

 

 

 

 

 

「いまロック」な夜

今夜のBGMはロックな気分。

若いころは、自分もオッサンになったら、

演歌を聞いたり、歌ったりするのだろうと思っていた。

それも悪くないのだが、そうならなかったのだからしょうがない。

年喰ったら、みんなが写経したり、般若心経を唱えるわけでもない。

それと同じだろう。

というわけで、音楽はジャズが中心なのだが、いまだにロックも聴く。

それも若いころに流行っていたクラシックロックばかりではなく、

現在進行形のロックも聴いてみたいと思っている。

ただし、ジジイのことゆえ、もうあんまりアンテナは張れない。

好みのど真ん中にひっかかったモノだけを釣り上げている。

そのなかから2,3紹介するので、同年輩の方も聴いてみてほしい。

まず、ドイツのエレクトロロックバンドのPolarkreis 18。

2010年のアルバム『Frei』から。

「Unendliche Sinfonie」 http://www.youtube.com/watch?v=DpglxEW84fI

「Dark and Grey」 http://www.youtube.com/watch?v=clgcGkrFcss

ライブ http://www.youtube.com/watch?v=xRBVC3JxWao

続いて、アメリカの新鋭バンドMutemath。

(Radiohead meets Police といわれている)

2011年のアルバム『Odd Soul』から。

「Prytania」 http://www.youtube.com/watch?v=ADrBzG69wEg

「Blood Pressure」 http://www.youtube.com/watch?v=cv2mjAgFTaI

で、最後はいまや大御所のRadiohead。

2008年のアルバム『In Rainbows』より。

「15 Step」 http://www.youtube.com/watch?v=WedRDYmtvX4

「Nude」 http://www.youtube.com/watch?v=5ZT_nrrpe8c

「House Of Cards」 http://www.youtube.com/watch?v=Xj8ckSAAOK0

 

えっ、なに?

みんなファルセットだって・・・

あっ、そういえば、そうですね(笑)

まあジジイなので、好みの幅が狭いということで、

ご勘弁を。

 

ふるさとの山

事務所の窓から

ビルの間に比叡山が見える。

この事務所に越してきたとき、

なによりもうれしかったのはそのことだ。

この山の麓で育った。

小学校でも、中学校でも

校庭から仰ぎ見たのはこの山だ。

冬は比叡颪の洗礼を受け、

夏は山上に涼を求めた。

春秋には山腹や登山道で遊んだ。

身近すぎて、意識もしなかったこの山が、

「ふるさとの山」として貴重な存在となったのは

東京で学生生活を送った数年間だ。

帰省するたびに、この山を自然と目で探し、

小バカにしていた啄木の短歌を実感した。

その後、京都で職を得て、比叡山はまた身近な山となった。

その存在感が自分のなかで再浮上したのは、

この事務所に移った7,8年前からだろう。

なにしろ毎日、眺めている。

遠目だが、比叡山は日の移ろいとともに

四季折々の姿を見せてくれる。

比叡山と私は、

「そこにある=ここにいる」という

確かな紐帯で結ばれている。

そんな気がしている。

それこそ、ふるさとの山である。

 

いまの世をいかにか思ふかく問へど

人にあらねば比叡は答へず    吉井 勇

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霊験あらたか!

新年も早15日。

今日で松の内も開けて、

正月気分もすっかり抜けました(って、遅すぎ?)。

ところで、今年は午年。

馬好き、とくに白い馬(芦毛)が大好物な私に

またとないプレゼントが届きました。

新年早々伊勢神宮にお詣りした友人が

贈ってくれた陶製の干支像。

机に飾っておけば、金運ザクザクとか、

なにせ伊勢神宮のものなので、

霊験あらたかなのは間違いなし。

仕事はもちろん、

お馬さん(!)のほうの運勢も上向くはず。

さっそく近所の100円ショップで

コースターを買ってきて、お馬さんの座布団に。

まだ、いまのところ効果は顕れていないが、

なあにまだ正月が開けたばかり(って遅すぎ?)。

カモがネギならぬ、

馬が万馬券を背負って走り寄ってくるのを

気長に待ち続けたいと思います。

 

うまさうな雪がふうはりふうはりと  一茶

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あっ、下の「ねこふせん」は東京の友人からのプレゼントです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Works更新のお知らせ

Works「物語の始まり」に

『中筋グループの歩み』を追加しました。

第3部の三代の社長を描いた部分です。

島根県の建設会社。

創設者の中筋賢一氏は

侠気にあふれた大社町の次郎長と呼ばれた人物です。

書き出しだけですが、ぜひご覧ください。

http://office-tal.com/?page_id=100

寒風に吹かれているのは

正月やしもばしらさへいつしかと

春のものなるここちして踏む  晶子

 

あけましておめでとうございます。

office TALを開設したのが昨年8月。

そのとき、リセットしたはずなのに、

新年を迎えて、またまた気分一新です。

日本の前途と同様に、

office TALの行く末にも暗雲が立ちこめている(笑)ものの、

まあ「ケセラセラ」の気持ちで進むしかない。

そこで、わずか数カ月でもその垢を落として、

改めてスタートを切りたいと思っています。

新春の寒風のなかに吹かれているのは、

何らかの答なのか、新しい希望なのか。それとも・・・

 

本年もよろしくお願いいたします。

(なお、数年前より生来のずぼらが高じて、年賀状をいっさいさぼっております。

失礼の段、ひらにお許しください)